絵の描き方・準備編

絵を描く動機と目的
何でもいいと思います。
物心ついた頃には自然と絵を描いていたので、私にとって根源的な「絵を描く動機」は、はっきりしません。ただしその時々で「目的」だけはあって、小学生の頃の目的は「友達や同級生達とのコミュニケーションの一環として」でした。大体の子がお絵描きをしていて、中には漫画を描くグループもあり、活発に描いて見せ合いをしていました。なので当然、子どもらしく対抗心くらいは沸きます。母にもしょっちゅう見せていましたが、いつもいつもディズニーや手塚治虫などのプロと比べられて欠点を論われるばかりで、誉められた事がありません。「プロと比べるのはずるい!なんで誉めてくれないの!」と抗議したところ「誉められるために描いてんの?下らんな」と一蹴されました。私は「それもそうだね」と、以降、誉めは求めないまま、ただ「一般人からのフラットな意見」を求めて母にも見せ続けました。
恐らく元から絵において、「誉められる」という、副次的な要素・コントロール出来ない他者依存の要素に期待しない性質だったので、納得したのだと思います。たぶん「誉められる」という事は、私にとって絵を描く動機でも目的でも無かったのだと思います。
さておき、SNSが普及した現在においては絵を描く人の動機や目的も様々にあるかと思います。
何でもいいと思います。「描きたい」という意思があるのなら。ただ、無意識にあふれ出るような物が無いと恐らく長続きしません。前置きは長くなりましたが「長く楽しく描いていくために」、順序立てて準備編から綴って行こうと思います。
心構え
・いきなり上手くなるとは思わないこと
∟ピカソ幼少期の絵がよく引き合いに出されますが、それはピカソが小さい頃から英才教育を受けてそれだけの枚数描き続けてきたからです。最初から何もせずに上手く描ける人はいません。上手さとは振り返りながら積み上げてきた枚数や場数であり、枚数は嘘をつきません。
・最初は「楽しさ」「好き」を重視すること
∟お絵描きは究極的には「自分の好き」を見つけ、「自分の画風」という名の言葉で誰かに伝える術を身に着ける作業だと思います。最初から義務的だと、良いサイクルが作られる前に飽きます。
・小さな目標を細切れに作っていくこと
∟壮大な目標があったとしても「今は一旦あの電柱まで走ろう」の気持ちを忘れずに。
・高額な講座や個人の添削をいきなり受けないこと
∟お絵描き講座、コンセプトアート講座を受けるのは自由ですが、絵の初歩がわからないうちからワークショップなどに参加しても大半の事項において理解が難しいと思います。また、最近はアマチュアの方による講座や添削もあるようです。組織で仕事をした事の無い方による添削は、その添削者の方の趣味趣向が出るだけである事が多い=添削の根拠に乏しく、個性を模倣するだけになる事が大半だと思われるので、おすすめしません。
勿論、長年講師をされてきたような方の添削なら、受けても構わないと思います。でもそれはもうちょっと先ですね。
・お絵描きインフルエンサーや情報商材屋の言葉を真に受けないこと
∟「描けない人の特徴」とか「これさえ出来れば今すぐ副業可能」などという、不安感を煽るような言葉や、一発逆転を夢見させるような言葉は無視して下さい。後者は特に、単なる詐欺です。まずは手を動かして、基礎を積み上げていく方が有意義です。頭でっかちになるのは百害あって一利なし。特に後者はほんとに気を付けてください。刑事事件として立件が難しいだけの高額ふとん販売みたいなもんだと思って下さい。
練習用に揃える画材
必須(アナログ):鉛筆・鉛筆削り・消しゴム・白い紙
推奨(デジタル):パソコン・ペンタブレット/場合によってはiPad
【鉛筆】
通常の店舗で売られているメーカー品なら何でもいいです。メーカー品である事だけ妥協できないのは、描き味が直接「楽しさ」に繋がってくるからです。
柴崎春通さんはどんな画材も使いこなしていますが、それは柴崎さんがそういう「弘法筆を選ばず」の境地に至っているからです。初めから「よくわからない所の鉛筆」は推奨しません。
軽い落書き程度ならシャープペンシルでも構いませんが、デッサンの際は出来れば鉛筆が良いです。というのも、斜め描きや指でこすったりなどちょっと変則的な使い方が出来なくなるからです。
私のおすすめは三菱ユニです。
Hの数字が増えるほど硬く、Bの数字が増えるほど柔らかくなります。それぞれの筆圧に合わせて合うものを使うといいと思います。私は大体2B以上の柔らかいものを使っていました。
【鉛筆削り】
鉛筆削りナイフでも、手動や電動の鉛筆削り器でも、どちらでもいいと思います。
強いて言えばデッサンの時は芯を長く出して、斜め横描きでぼかしたり色々やれるので、鉛筆削りナイフで好みの程度に芯を出せるようになると便利だと思います。ですが慣れも必要ですし、最初は鉛筆削り器でいいと思います。
私はナイフ代わりにカッターナイフと、鉛筆削り器を併用していました。
【消しゴム】
消しやすければ何でもいいです。
デッサンを本格的にするとなると練り消しゴムの方が扱いやすいですが、ちょろっと描いていくくらいなら必須ではありません。消しゴムも、使い易いものがいいと思います。
私は練り消しと消しゴムを併用していて、消しゴムはレーダー消しゴムをずっと愛用しています。
【白い紙】
描きやすければ何でもいいです。
さっきから何でもいいが続いていますが、手に馴染む描き味のものなら何でも良いです。チラシの裏でもミスコピーでも、学校で配られたお知らせの裏でも。
私は1000枚以上を自分に課した時に、適当にホームセンターでA4コピー用紙を3セット買ってきました。1セット500枚入りなのでお得ですし、描き味も悪くないです。1セット500枚入り、500円以下のもので十分です。
手軽に持ち運べるものが良かったら、クロッキー帳がおすすめです。スケッチブックはちょっと豪華な紙な分、一枚ごとの単価が高くなっているので、そこまでおすすめはしないです。
【パソコンとソフト】
ゲーミングパソコンなら大体安心ですが、Photoshopか、最低限SAIが動く程度のパソコンなら何でもいいと思います。
おすすめソフトはSAIです。SAIは買い切り¥5,500で、要求スペックも低めなので便利です。
Photoshopについては、慣れてからのサブスク加入でも大丈夫です。サブスク=所謂アドビ税、と呼ばれる月額料金(現時点月額¥2,380)がまあまあかかるからです。
CLIP STUDIO PAINTも便利なんですが、便利過ぎるので初期の練習には不向きだと思って下さい。使うなとまでは言いませんが、私としては、練習用として非推奨です。SAIで大体使い方を覚えた後に買うとか、ある程度慣れた後でも遅くないです。
私はプロになるまで、家電量販店で販売されていた富士通のパソコンと、PainterClassic(ペンタブレットの付属ソフト)を使っていました。最低限お絵描きが出来れば十分なので、無理をして高価なもの、プロユースに手を出す必要はありません。
【ペンタブレット】
Wacomの板タブレットで十分だと思います。液晶タブレットはストレートネックの原因になったり、姿勢が悪くなるという問題もあるのでおすすめはしません。あと、初心者の段階でいきなり買うには高額です。液晶タブレットの方が性にあうという方は止めませんが、ゲームアートのプロの現場でも板タブレットは現役で使われています。液晶タブレットを使う人も居ますが、どちらかと言えば少数かなと思います。
私は最初一番小さくて一番安価なモデルを買いました。さすがに今になると最小サイズは辛いので、medium以上のサイズをおすすめします。
私が今、自宅で趣味とイラストレーター業務用に使用しているのはCTH-680です。急にタブレットが壊れたので買ったまま、ずっと使っています。
今見た感じ「One by Wacom」というものでも十分なような気がします。
Intuos、IntuosProと感度が変わるみたいなんですが、正直なところ私にはあんまりよくわかりません。強いて言えば「smallサイズはどのバージョンでもつらい」という程度で、サイズが一番問題かなと思います。描けますけどね、smallでも。でも描きづらい。感度よりもサイズです。
【iPadとソフト】
iPadもペンとセットで中々いいお値段してくれますが、パソコンとソフトとペンタブレットを揃えるのと天秤にかけて考えると、ちょっとお安いかも?という感じです。「パソコンか、iPadか」は、お好みでいいと思います。個人的にはパソコン推奨ですが…。
サイズが大事なのでmini以外なら何でもいいんじゃないでしょうか。私はiPad Air第三世代のものを使っていて、これであまり絵は描きませんが、同人誌一冊分漫画はさくさく描けました。スペック的にも申し分ないと思います。
そしてソフトはProcreateがおすすめです。買い切り¥1,800。ちょっとクセはありますが、昔PainterClassicで描いていた時の描き味を彷彿とさせます。
ちなみにiPadで原稿を描いていた時、見事に首が痛くなりました。液晶タブレットと原理は同じなので、たぶん姿勢は考えないとストレートネックの原因にもなると思います。ご注意を。
アナログとデジタル画材を併記した理由
アナログ(鉛筆等)はデッサンを行ったりする最低限必要な画材であり、どこでもすぐに使う事が出来て、充電を考えなくてもいい、初期投資も安価で手軽なものだからです。
一方でなぜデジタルをご紹介したかというと、カラー絵の練習時に、トータルで考えると安価だからです。そして、鉛筆や紙を用意出来なくても、デジタル環境があればそれも補えるからです。
なのでデジタル画材は初期段階では「推奨」に留まっていて「必須」ではないです。
私もアクリルガッシュや透明水彩などを使っていた事もありましたが、アナログカラー絵は消耗品を使いまくるので、お金がかかります。絵の具はすぐ無くなるし、筆もすぐワヤワヤになります。紙は厚手のカレンダーの裏側を使ったりしていましたが、この紙もきちんとしたイラストボードなどを揃えたら更に費用がかさみます。水彩は水彩用の紙を使わないと水張りした段階で紙がぐにゃぐにゃになるので、水彩だと使える紙が限られてくる分、紙代が必須になります。
絵具はかつて天然素材から作られていたので、色によって価格も変動していて高価でした。今は合成絵具もありますが、それでも結構な値段がします。アクリルガッシュだって厚塗り油画風にしようとすると、あっという間に使い果たしてしまいます。画材屋さんで大容量のものが売られている理由がわかってきます。
余談ですが半貴石に該当するラピスラズリを砕いて作られた「ウルトラマリン」は高価だったので、古い時代の画家達もここぞと言う時、聖母の衣の色など限定的に使用していました。
アニメの背景美術さんがアナログで使う絵の具もポスターカラーだったそうです。ポスターカラーが一番安価だと思います。しかし、それでも消耗が早い消耗品です。比較的手軽で安価に買える鉛筆や紙とは、またちょっとわけが違うんですよね。
なのでカラー絵の練習をする時は、初期投資でそれなりにお金がかかったとしても、デジタルをおすすめしたいです。もし絵を描かなくなっても、他に使いようもありますから。デジタルを触ってみてから、それからアナログカラー絵に移行してもいいと思います。厚塗り系なら描き方・塗り方の基本はそんなに変わりません。
デジタル画材(ソフト)の注意点
これも心構えみたいなものなんですが、「自在に使えるようになるまで半年から一年かかる」と思っていた方がいいと思います。もしかしたら凄く物覚えの良い人はもっと早く使いこなせるようになるかもしれませんが、私個人は、何のソフトだろうと習得には半年から一年かかりました。CLIP STUDIO PAINTを触ったのは、コンセプトアーティストとしてゲーム業界に転職して暫く経ってからでしたが「たぶん半年かかるだろうなあ」と思ったとおり、機能を覚えるまで半年かかりました。SAIと同じ2Dソフトでもそんな感じです。SAIは転職前だったのもあってか、自在に扱えるまで一年かかった記憶があります。
基本的な画力、絵を描く力というのは一度身に着くとそうそう変動しませんが、デジタル画材、ソフトの使い方というのはそれとはまた別の話です。
それに比べるとアナログ画材の使い方はあまり忘れる事が無いので、基礎を身に着ける上において、アナログ画材は最良だと私は思います。
私の作例
折角なので私が小さい頃の絵を……と言いたい所なんですが、幼稚園の頃の一枚を除いて、漫画もデッサンも、それ以外に描いてきた1500枚も、全部シュレッダーにかけて上京してきたので、上京するまでに描いた絵はアナログのものが一切残っていません。いくつかスキャンしていたものや、同人誌の原稿くらいが残っているだけです。
ただ、デジタル絵は残っていますので、デジタル最初期の絵を掲載します。

創作キャラクター、シルヴァネールです
パソコンを買った2000年、今から25年前の絵です。当時はマウスとMSペイント、あと当時無料配布されていたフリーソフトを駆使してなんとか描いていたので、なるほどなあという感じです。まだ本格的に練習を始める前ですね。

同じく、シルヴァネール
その大体一年後、2001年の同じキャラクターの絵です。
スキャナーを買ってアナログ線画を取り込み、ペンタブレットを使って、PaintShopPro6Jで塗りました。ペンタブレットを得たとはいえ、教本を見ながらの練習、寺田克也さんの「ペインタボン!」を参考にしながらの練習が無ければここまで描けるようにならなかっただろうなとは思います。
勿論、上述の通り、00年以前までもずっと描いていたので漫画絵の下積みも、趣味の模写の下積みもありました。00年以前の絵、ほんの少数残っているアナログ絵を出しますと、こんな感じです。

記入しているとおり、中学二年生の頃あたりに描いていた漫画の1ページです
00年以前はこんな感じでした。好きなように好き勝手に、練習の「れ」の字もほぼ無く描いていたので、「模写無き(漫画記号の)模倣」と言う感じでしょうか。
あとがきと次回予告
今回は以上となります。
道具揃えるとこまでかい!と、自分でも思いますが、まずは紙と鉛筆を手に取って、好きにお絵描きするところから始めてみてください。それが楽しくなってきたら、アナログの模写、デジタルの画材も揃えて、カラーの絵や、デジタルの模写も試してみてください。
まずは絵を描く事が楽しくならないと、練習も何も無いと、私は思います。
次回は「模写と模倣の違い」を交えて、私が参考にしてきた、おすすめの教本をご紹介しようと思います。それでは、楽しいお絵描きライフを始めましょう…!

「終焉のパンドラ」より、ニコラ、アルファ、理人
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